ひとつは、『嫦娥奔月』、月にのぼってしまった 美しい仙女・嫦娥の伝説。
かつて10 個もあったという太陽は、その暑さと日照りによって 人々を苦しめていたといいます。
そこで、弓矢の名手であった后羿という男が人々を救おうと、その矢で太陽を次々と射落としていきました。
そして太陽は、現在のようなひとつだけの姿になったのです。
しかし、英雄として高い地位を得た后羿はだんだんと傲慢になり、ついには不老不死の薬をも手に入れてしまう。
その妻であった嫦娥は、暴虐な夫が永遠の命を得ることを恐れ、思い切って自分でその薬を飲み込んでしまいました。
すると、とたんに嫦娥のからだがふわりと浮かび上がり、月までのぼっていったのです。
それからはひとり、月でずっと暮らし続けている、そんな物語です。
このストーリーには諸説ありますが、 台湾ではみんな幼いころから何度も聞いてきた、 とてもなじみ深いストーリーです。
ふたつめの物語は、『玉兔搗藥』。嫦娥のそばで、薬をついている玉兎のお話です。
日本では、お餅つきをしていると伝えられるウサギは、 台湾ではお薬を作っているのですね。
孤独に暮らす嫦娥を哀れんだ神様によって、彼女の唯一の友人として、ウサギが月に連れてこられたのでしょうか。
そして最後に、『呉剛伐桂』というお話。
月に浮かぶ黒い人影のようなシルエットは、 呉剛という、ある欲張りな男が 木を切っている姿だとされています。
このお話にもいろいろな言い伝えがありますが、 強欲なものへの罰として神様が呉剛を月に送り、月桂樹の木を切るよう命じたと言われています。
しかしこの木は切っても切っても倒れない。
それどころか、 切るそばからその傷がすぐふさがり、 斧の跡さえ残りません。
呉剛は月で永遠に斧を振るい、 倒れることのない木を切り続けていると語り継がれているのです。
台湾の人々はみんな、こどものころからこの3つのふしぎな物語に触れてきました。
いまでも、夜空に輝く中秋の満月を見上げると、 それぞれの主人公の姿を思い起こさずにはいられません。