中秋節となりました。
10月2日は、月がめいっぱい満ちる、満月の夜です。
一年のうちでもっとも美しいとされる、中秋の満月。

美しいものには、つねに物語が宿ります。

いつの時代でも人々は、月に浮かび上がる神秘的な模様を眺めながら、さまざまな思いを巡らせてきたのでしょう。

台湾では、古くより三つのお話が語り継がれてきました。


ひとつは、『嫦娥奔月』、月にのぼってしまった美しい仙女・嫦娥の伝説です。

かつて10 個もあったという太陽は、その暑さと日照りによって人々を苦しめていました。そこで、弓矢の名手であった后羿という男が、人々を救うためその矢で太陽を次々と射落とし、現在のように、太陽はひとつだけとなったのだと言われています。
しかし、英雄として高い地位を得た后羿はだんだんと傲慢になり、やがて、不老不死の薬をも手に入れてしまう……
その妻であった嫦娥は、暴虐な夫が永遠の命を得ることを恐れ、思い切って、自分でその薬を飲み込んでしまいました。
すると、とたんに嫦娥のからだがふわりと浮かび上がり、月までのぼって、それからひとり、月で暮らし続けているのです。

このストーリーには、じつは諸説あるのですが、台湾ではみんな幼いころから何度も聞いてきた、とてもなじみ深い物語なんですよ。

ふたつめの物語は、『玉兔搗藥』。
嫦娥のそばで、薬をついている玉兎のお話です。
日本では、お餅つきをしていると伝えられるウサギは、台湾ではお薬を作っているのですね。孤独に暮らす嫦娥を哀れんだ神様によって、彼女の唯一の友人として、ウサギが月に連れてこられたのかもしれません。

三つめは、『呉剛伐桂』という物語。
月に浮かぶ黒い人影のようなシルエットは、呉剛という、ある怠け者で欲張りな男が木を切っている姿だとされています。
このお話にもいろいろな言い伝えがありますが、神様が罰として呉剛を月に送り、月桂樹の木を切るよう命じたのだといいます。
しかし、この木は切っても切っても倒れないどころか、切るそばからその傷がすぐふさがり、斧の跡さえ残りません。呉剛は月で、永遠に斧を振るい、倒れることのない木を切り続けているのだそうです。

台湾の人々はみんな、こどものころからこの三つのふしぎな物語に触れてきました。いまでも、夜空に輝く中秋の満月を見上げると、それぞれの主人公の姿を思い起こさずにはいられません。

さて、台湾で「中秋節」を過ごすなら、きまって「月餅・文旦・BBQ」 。

どこから始まったのか、この日には家族や親切が集まって、月明かりのしたBBQ を楽しむ風習があります。
デザートには、フルーツの文旦をいただくのがお決まり。
台湾の文旦は日本のものよりも大きく、こどもの頭くらいあります。
文旦を食べ終わったら、切れ目を入れて、こどもに被せては「帽子!」と盛り上がるのも、またお決まり。

もちろんこの時期には、お店がこぞって月餅を売り出します。
月餅は、日本のお中元のように、仕事上、お世話になった方に贈ることも多く、名刺が貼り付けられたギフトボックスに入っている月餅が、食べきれないほど集まることも。
毎年、いろんな月餅を食べ比べてワイワイ。
しばらく朝ごはんは月餅、なんておうちもよく聞きますよ。

まあるい月餅は、家族団欒のシンボルなのかもしれませんね。


このように中秋節は、台湾の人々にとって、とても大切な文化のひとつなのです。